質問: $\mathcal{O}(X)$ の極小完全素フィルター全体の集合(自然な位相を入れたもの)は通常どう呼ばれていますか?
回答: 位相空間 $X$ の開集合系 $\mathcal{O}(X)$ の「完全素フィルター全体」からなる空間は一般に Sober化 (Soberification) と呼ばれます。
その中で「極小」なものだけを集めた部分空間には、単一の決まった固有名詞はありませんが、文脈に応じて以下のように呼ばれます。
定理を厳密に証明するために必要なすべての定義を列挙します。
主定理の証明を飛躍なく行うため、3つの重要な補題を証明します。
$\mathcal{O}(X)$ の完全素フィルター $F$ と、$X$ の既約閉集合 $Z$ は以下の写像で包含関係を逆転させて1対1に対応する。
$F \mapsto Z_F = X \setminus \bigcup_{U \notin F} U$
$Z \mapsto F_Z = \{ U \in \mathcal{O}(X) \mid U \cap Z \neq \emptyset \}$
$Z_F$ が既約閉集合であること: 開集合の和集合の補集合なので $Z_F$ は閉集合。$X \in F$ より $\emptyset \notin F$ なので $Z_F \neq \emptyset$。もし $Z_F = C_1 \cup C_2$($C_1, C_2$は閉)と書けたとする。$V_i = X \setminus C_i$ とおくと、$X \setminus Z_F = V_1 \cap V_2$。$Z_F$ の定義より、$X \setminus Z_F$ は「$F$ に含まれない開集合の最大の和集合」である。もし $V_1 \in F$ かつ $V_2 \in F$ なら $V_1 \cap V_2 \in F$ となり矛盾。よって $V_1 \notin F$ または $V_2 \notin F$。$V_1 \notin F$ なら $V_1 \subseteq X \setminus Z_F$ より $C_1 \supseteq Z_F$ となり $Z_F = C_1$。ゆえに既約。
$F_Z$ が完全素フィルターであること: $Z \neq \emptyset$ より $X \in F_Z$。$Z$ が既約であることから、$\bigcup U_i \in F_Z \iff (\bigcup U_i) \cap Z \neq \emptyset \iff \exists i, U_i \cap Z \neq \emptyset \iff \exists i, U_i \in F_Z$ となり完全素性が成り立つ。
対応が互いに逆であること: 定義から $U \in F_{Z_F} \iff U \cap Z_F \neq \emptyset \iff U \not\subseteq \bigcup_{V \notin F} V \iff U \in F$(完全素性による)。よって $F_{Z_F} = F$。逆も同様。包含関係が $F_1 \subseteq F_2 \iff Z_2 \subseteq Z_1$ と逆転することは定義から明らか。
任意の位相空間 $X$ において、任意の点 $x \in X$ の閉包 $\overline{\{x\}}$ は既約閉集合である。また、これに対応する完全素フィルターは $F_x = \{ U \in \mathcal{O}(X) \mid x \in U \}$ である。
$\overline{\{x\}} = C_1 \cup C_2$($C_1, C_2$は閉集合)と仮定する。$x \in \overline{\{x\}}$ なので、$x \in C_1$ または $x \in C_2$ である。対称性から $x \in C_1$ とすると、閉包の最小性から $\overline{\{x\}} \subseteq C_1$。よって $\overline{\{x\}} = C_1$ となり既約である。
$\overline{\{x\}}$ に対応するフィルター $F_{\overline{\{x\}}}$ は、補題1より $\{ U \mid U \cap \overline{\{x\}} \neq \emptyset \}$。開集合 $U$ が $\overline{\{x\}}$ と交わることは、$U$ が $x$ を含むことと同値($x \notin U \iff U \subseteq X \setminus \overline{\{x\}}$ の対偶)であるため、これは $\{ U \mid x \in U \} = F_x$ に一致する。
$\mathcal{M}$ の開集合の基底は、各 $U \in \mathcal{O}(X)$ に対して $\Sigma_U = \{ F \in \mathcal{M} \mid U \in F \}$ で与えられる。
「写像 $f: X \to \mathcal{M}, \ x \mapsto F_x$ が同相写像になるのは、空間 $X$ が $T_1$空間であるとき、かつそのときに限る。」
$X$ が $T_1$空間であると仮定する。定義より、任意の $x \in X$ について $\overline{\{x\}} = \{x\}$ である。
写像 $f: X \to \mathcal{M}, \ x \mapsto F_x$ が全単射な同相写像であると仮定する。
元の空間 $X$ が $T_1$ であろうとなかろうと、そこから構成された空間 $\mathcal{M}$ は自動的に $T_1$空間としての性質を備えます。
任意の位相空間 $X$ に対して、極小完全素フィルターの空間 $\mathcal{M}$ は常に $T_1$空間になる。
空間 $\mathcal{M}$ から任意の相異なる2点(すなわち極小完全素フィルター)$F_1, F_2$ を取る。$\mathcal{M}$ が $T_1$空間であることを示すためには、$F_1 \in O_1$ かつ $F_2 \notin O_1$ となる開集合 $O_1$ と、$F_2 \in O_2$ かつ $F_1 \notin O_2$ となる開集合 $O_2$ が存在することを示せばよい。
以上より、任意の異なる2点に対して、相手を含まず自分を含む開集合がそれぞれ存在することが示されたため、位相空間の定義より $\mathcal{M}$ は $T_1$空間である。
位相空間論において、極小完全素フィルター(あるいは極小既約閉集合)を集めるという操作は、「元の空間 $X$ の位相的な構造から、$T_1$空間として振る舞う最も骨格となる部分(閉点に相当する部分)だけを抽出・再構成する」という役割を持っています。
そのため、「$\mathcal{M}$ と $X$ が同相になる $\iff X$ が $T_1$空間である」という定理が成り立ちます。
$X$ が初めから $T_1$ ならば、骨格を抽出しても元の姿のままなので $\mathcal{M}$ と $X$ はぴったり一致(同相)します。しかし、$X$ が $T_1$ でない場合は、$\mathcal{M}$ は $X$ を強制的に $T_1$空間へ「スリム化」または「商化」したような別の空間になるため、全体とは同相になりません。
性質: $T_1$空間である(ハウスドルフなので)。
解説: 任意の1点 $\{x\}$ は閉集合です。極小な既約閉集合は1点集合 $\{x\}$ のみです。したがって極小完全素フィルターの空間 $\mathcal{M}$ は点 $x$ に対応するもののみからなり、$\mathcal{M}$ は $\mathbb{R}$ と同相になります。
性質: $T_1$空間である。
解説: すべての部分集合が開集合かつ閉集合です。閉包 $\overline{\{x\}} = \{x\}$ なので、すべての点が閉点です。既約閉集合も1点集合のみです。よって $\mathcal{M}$ は $X$ と同相になります。
性質: $T_1$空間ではない($T_0$空間ではある)。
解説: 開集合は $\emptyset, \{1\}, \{0, 1\}$ です。閉集合は $\{0, 1\}, \{0\}, \emptyset$ です。既約閉集合は $\{0\}$ と $\{0, 1\}$ の2つです。このうち極小なものは $\{0\}$ のみです。
したがって、極小完全素フィルターの空間 $\mathcal{M}$ には $\{0\}$ に対応する1点しか存在しません。$X$ は2点あるため、$\mathcal{M}$ と $X$ は同相ではありません。(※$\mathcal{M}$ 自体は1点空間であり、明らかに $T_1$空間です)。
性質: $T_1$空間ではない($T_0$空間でもない)。
解説: 開集合は $\emptyset, X$ のみ。閉集合も $\emptyset, X$ のみ。既約閉集合は $X$ のみで、これが極小です。
$\mathcal{M}$ は $X$ 全体に対応するフィルター1つだけを持ちます。$\mathcal{M}$ は1点空間ですが、$X$ は2点空間なので同相ではありません。(※$\mathcal{M}$ は1点空間なので $T_1$空間です)。
性質: $T_1$空間ではない($T_0$空間であり、Sober空間である)。
解説: 点は素イデアル $(p)$ と $(0)$ です。閉点(極大イデアル)は $(p)$ であり、$\overline{\{(p)\}} = \{(p)\}$ は極小既約閉集合です。しかし $\overline{\{(0)\}} = \operatorname{Spec}(\mathbb{Z})$ 全体となり、これは極小ではありません($(p)$ を含むため)。
よって極小完全素フィルターを集めると、$(0)$ に対応する点が欠落し、閉点のみの空間 $\operatorname{Spm}(\mathbb{Z})$ になります。全体とは同相になりません。(※$\operatorname{Spm}(\mathbb{Z})$ は $T_1$空間です)。
性質: $T_1$空間である。
解説: 点は極大イデアル $(x-a)$ のみからなります。すべての点が閉点なので $T_1$空間です。
極小な既約閉集合は各1点集合 $\{(x-a)\}$ のみです。よって極小完全素フィルターの空間 $\mathcal{M}$ は元の空間と完全に一致し、同相になります。
性質: $T_1$空間である(Sober空間ではない)。
解説: 閉集合は有限集合と $\mathbb{N}$ 全体です。既約閉集合は、1点集合 $\{x\}$ と $\mathbb{N}$ 全体です。このうち極小なものは 1点集合 $\{x\}$ のみです。
極小既約閉集合が点と1対1に対応するため、極小完全素フィルターの空間 $\mathcal{M}$ は $\mathbb{N}$ と同相になります。(※Sober化すると全体 $\mathbb{N}$ に対応する「生成点」が追加されてしまいますが、「極小」フィルターに限定することで元の空間に戻ります)。
性質: $T_1$空間ではない。
解説: 空でない開集合は必ず点 $a$ を含みます。閉集合は $X$ 全体か、$a$ を含まない部分集合($\{b, c\}$ の部分集合)です。
閉包は $\overline{\{a\}} = X$, $\overline{\{b\}} = \{b\}$, $\overline{\{c\}} = \{c\}$ です。既約閉集合は $X, \{b\}, \{c\}$ です。
極小既約閉集合は $\{b\}$ と $\{c\}$ の2つです。$\mathcal{M}$ は離散な2点空間になり $T_1$空間ですが、$X$ は3点あるため同相ではありません。
性質: $T_1$空間である。
解説: 開基は $[a, b)$ の形をしています。1点集合 $\{x\}$ は閉集合になるため、$T_1$空間です。$T_1$空間であるため、これまでの議論通り極小完全素フィルターの空間 $\mathcal{M}$ は $\mathbb{R}$ と同相になります。
性質: $T_1$空間ではない。
解説: 開集合は $(a, \infty)$ と $\emptyset, \mathbb{R}$。閉集合は $(-\infty, a]$ と $\mathbb{R}, \emptyset$ です。
空でない閉集合 $(-\infty, a]$ はすべて既約閉集合です。しかし、任意の $a$ について、より小さな既約閉集合 $(-\infty, a-1]$ が存在するため、極小な既約閉集合が存在しません。
したがって、極小完全素フィルターの空間 $\mathcal{M}$ は「空集合」になってしまいます。空空間も自明な $T_1$空間ですが、$\mathbb{R}$ とは同相ではありません。